日本在宅透析支援会議


教育講演
在宅血液透析の導入時における指導と教育
演者:中尾弘美 (長寿クリニック)
中尾弘美
在宅血液透析(HHD)を行う条件として、自分でシャントの穿刺ができること、3〜4週間の導入訓練期間がとれることとされていた。そこで、介助者による穿刺を含めて講義内容の理解度および透析実技の習得状況を、訓練中とHHDへ移行後で比較して訓練期間を短縮できるか否かを検討した。2003年に完全社会復帰と充分量の透析を継続したいという希望から、HHDへ移行した6例(男3、女3例)と、長期CAPD施行による腹膜機能低下からHDへの移行を余儀なくされ、完全な社会復帰を希望とした2例(男性)、計8例を対象とした。これらの対象の日常生活上の背景を考慮して、指導期間を2〜3週間とした。シャント穿刺も自己穿刺を原則としたが状況によっては、介助者による施行も可能とした訓練方法を新しく考案してそれらも含めて検討した。その結果、@症例への導入前に行う面接時に、訓練に対する意欲の程度から訓練期間の設定を行った。A穿刺は介助者とも十分に話し合い、理解を得られた時点で指導を開始した。B透析実技の訓練方法は指導者側が分担を決めて行った。C1日の訓練時間を充分に取ることが理解を容易にした。D訓練終了時に多少の不安を抱えていた時期にはトラブルはなかったが慣れてきて緊張感がなくなった頃に穿刺ミスが発生したが、他の重大なトラブルは発生していない。以上をまとめると完全社会復帰を希望した対象に対して、対象者個々の日常生活に合わせて短期間の訓練計画を立てて実行した。その結果、工夫次第で期間の短縮は可能であり,特に透析者と介助者の取り組みが積極的な場合は容易であった。穿刺は介助者が参加することで,透析者の穿刺に対する緊張感が緩和され、痛みの共有から協力体制が強まった。今後、HHDの希望者の増加が予想されるが教育施設を増やすこと、適正訓練期間、介助者の穿刺などが課題となると思われた。




教育講演
在宅血液透析の現状と問題点
演者:吉本 忍 (長寿クリニック)
Dr.吉本 忍
 わが国では、1998年4月に在宅血液透析(HHD)がはじめて保険収載され、社会復帰をめざす血液透析(HD)患者および治療を行う医療機関にとって福音となっている。
 HHD患者は施設血液透析(CHD)患者に比して貧血、栄養状態、QOL,ADLおよび生命予後が優れていること、さらに合併症の少ないことが明らかにされている。HHDは、@CHDに行く時間を必要としないこと、A施設スタッフに対する心理的、精神的気遣いおよび緊張感から開放されること、BHD日程を自由に計画できること、CHD中も家族と接する時間が多くなることから社会復帰を望む患者はもとより、時間的制約あるいは高齢のためCHDへ行くのが困難な患者にも一層要望が高まるものと期待される。
 しかしながら、保険適応後のわが国のHHD患者数は、全透析患者の増加に拘わらず1998年87人、1999年75人、2000年101人、2001年103人、2002年99人と横這い状態であり、2002年全慢性腎不全患者数229,538人に対して約0.004%を占めるにすぎず、HHDが十分に行われていないことが明らかである。
 今回、演者の成績を加えてHHDの現状および問題点について述べるとともに今後HHDを普及させるための努力についても考察を加えたい。




ランチョンセミナー
高齢者におけるPD療法
−老いをさわやかに生きるために−

演者:平松 信 (岡山済生会総合病院 腎臓病センター)
Dr.平松 信
 世界的な高齢化の流れの中で、人が高齢になるまで保持し続けている能力は、高齢者の在宅医療を考える上で最も頼りがいのある原動力といえます。しかしながら、本質的に時間とともに衰退していくことが明らかな高齢者の能力ゆえに、透析導入時において持っている能力さえも過小評価される傾向にあります。
 また、透析療法の選択に関して、血液透析(HD)と腹膜透析(PD)はともに高い医療レベルにあるにもかかわらず、透析療法の内容は患者個々の合併症の程度により大きく左右されることから、両療法における予後とQOLについては一律には評価できないのが現状です。しかし、導入時まで自立あるいは家族の支援で自立していた高齢者は、PD導入後に予想以上にすばらしい透析ライフをおくれることや、PD療法が高齢者に精神的に受容されやすいことから、高齢者におけるPD療法が増加しています。
 高齢者透析は特殊な病態における透析療法とされていますが、近い将来には透析患者の大多数が高齢者となり、透析といえば高齢者透析のことになると考えられます。そして、さらなる高齢社会に向けて、豊かな高齢者の時間と能力を最大限活かして、在宅医療としてのPD療法を一層普及させるためには、介護保険制度の充実と高齢者のためのPD支援システムを確立することが求められます。
“さわやかさ”とは、精神的にもふっきれ、生理的にも滞るところが何も無い様子であるならば、さわやかに生きることは人の究極の目標であります。自らの生き方を選択した高齢PD患者の中に“老いのさわやかさ”を発見できるのは、PD療法が高齢者に向いている一つの証であります。
 高齢者の高齢者による高齢者のためのPD療法を応援したいものです。




ランチョンセミナー
ボタンホール穿刺法
−シャント血管の穿刺からシャント血管の挿入へ−

演者:新里高弘 (大幸医工学研究所)
Dr.新里高弘
 在宅血液透析では、患者自身あるいは介助者(通常は家族)がシャント血管穿刺をおこなわなければならない。そして、その手技に習熟するにはある程度の訓練が必要である。
しかし、現在、簡単な手技を習熟するだけでシャント血管穿刺がおこなえるボタンホール穿刺法が普及しつつある。この方法は、とくに在宅血液透析に適していると思われる。
 ボタンホール穿刺法とは、毎回、シャント血管のまったく同じ場所を穿刺する方法である。透析ごとに穿刺部位を変えてシャント血管の広い範囲を穿刺する方法よりも、むしろボタンホール穿刺法でシャント血管の寿命が延長するとの報告がある。
 これまで、ボタンホール穿刺を成功させるためには固定した穿刺ルートが完成するまで、同一の熟練した医療スタッフがシャント血管穿刺を担当しなければならなかった。しかし、そのようなことは現実には不可能であり、それゆえ、これまでボタンホール穿刺法が一般に普及することはなかった。
 そこで我々は、透析終了後で穿刺針の抜去後に、血管の表面近くにまでしか到達しないポリカーボネート製画鋲型スティックを穿刺ルート跡に挿入し、これを2週間留置することにより固定穿刺ルート(ボタンホール)を作製する方法を考案した。この方法により作製した固定穿刺ルートに沿って先端が鈍い穿刺針(ダルニードル)を挿入すると、ボタンホール穿刺が行われる。しかし、この方法によるボタンホール穿刺にも「コツ」がある。
 今回のセミナーでは、この新しいボタンホール作製法の開発経緯および、ボタンホール穿刺の詳細とコツを紹介したい。






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