日本在宅透析支援会議


特別講演
心臓と脳蘇生
−知能と心を取り戻す脳低温療法−

演者:林 成之 (日本大学医学部 救急医学集中医療)
Dr.林 成之
 脳の治療革命をもたらしたと言われる脳低温療法を開発し、これまでの治療では救命さえ困難とされた、瞳孔散大や呼吸停止を来した多くの患者さんを救うことが可能となった。特に、重症患者を知能障害や後遺症を残さずに治すためには、人間の知能や心をどのように高めるかと言う具体的な治療法まで確立する必要がある。本日は、この治療法を介して学んだ多くのものの中から、日常生活に少しでも役立つように、以下の四つのテーマについて話したい。

 Key words: 脳と心臓は蘇る!、成功への理論、脳治療革命の朝、知能と心を鍛える秘策、人は輝ける!


1.脳の治療革命をもたらしたと言われる脳低温療法とはどんな治療?

 1)これまでの脳の治療法:壊れた脳は治らないとされている。それゆえさらに脳が、脳の循環障害、浮腫、脳圧上昇、活性酸素で壊れて行くのを止めるだけの脳保護治療が行われて来た。この概念は実験動物でも間違いのない事実として理解されている。
 2)これまでの脳の治療法の間違いと新しい脳の壊れ方の発見:動物実験は科学的に正確なデータを出すため麻酔下で37℃の体温で行われた。その脳の壊れ方と、32-44℃まで脳温が変動し、外傷、脳卒中、心停止など脳の侵襲によって脳内神経ホルモンが基準域の数十倍もでるヒトである患者さんとでは脳の壊れ方が違う。
  新しく発見した脳の壊れ方
  ● 脳内熱貯溜によって40-44℃まで脳内温度は上昇する
  ● カテコールアミンの過剰放出に伴う高血糖が発現する
  ● 酸素吸入でも効果のないヘモグロビンの機能障害と低酸素脳症
  ● 神経ホルモンの放出に伴う知能と感情中枢の障害機構

 3)脳低温療法とは:障害を受けた臓器の温度は上昇する。脳障害時には40℃を超えることもある。脳の温度を32-34℃に厳重に保って、死にかけている神経細胞を甦らせるために必要な酸素とブドウ糖を適切に投与する治療法を脳低温療法と言う。低体温という非生理的な環境で発生する、免疫不全、脂質代謝障害、心機能低下などの合併症を予防しながら継続する脳低温療法は不眠不休の治療法である。

2.最高の医療チーム作りと知能的患者管理法の開発
高度の医療を行うためには、それを行う医療チームを鍛え、設備や管理機能を高める必要がある。
 1)IQとEQを鍛えたプロチーム作りの方法の紹介
 2)知能的患者管理法の開発:「トップクラスの、脳、呼吸器、心臓、消化器、手足の専門家が救命救急センターに全員集合して、しかも、夜中の3-4時でもすぐ患者を診る」という組織、医療チームを作る。

3.植物症発生の解明とその治療法「―知能と心を取り戻す原理―」
 1)知能と感情中枢が壊れると植物症になる。脳全体が壊れる障害の他に、海馬回と扁桃核が壊れても植物症になる。
 2)ドーバミン神経群が重要で性格が暗いと植物症になりやすい。
 3)ドーバミンA10神経群を鍛えると知能障害が回復し、頭も良くなる。
 4)ドーバミンA10神経群(感情中枢)
             視床下部 → 意欲
             海馬回  → 短期記憶、学習
             尾状核  → 感情
             側坐核  → 愛情
             前頭葉  → 思考
             扁桃核  → 喜怒哀楽

4.心臓が動かなくても患者は社会復帰できる。




招請講演
PD+HD併用療法のすべて
演者:福井博義 (熊本中央病院 腎臓科)
Dr.福井博義
 私達の「PD+HD併用療法」は残腎機能消失後の26歳の患者で初めて行われた。透析不足と除水不足を補うためである。その後、しばらくたってから、一回の透析で2日間のCAPD休止を開始した。いわゆる『腹膜休息』であり、その結果、4ケ月で約80%の除水量の増加という予期せぬ結果を得た。この『腹膜休息』は「PD+HD併用療法」を行うことによりはじめて可能となった治療法である。その後色々の場面で「PD+HD併用療法」を行うこととなった。一回5-6時間の血液透析で2日間のCAPD休止を原則とした。この療法の目的は以下の5つに要約される。
 1)水分・塩分除去と溶質除去の不足を補う
 2)出来るだけ高濃度透析液への移行を避ける。
 3)腹膜炎時の腹膜の傷害を避ける。
 4)腹膜休息効果
 5)腹膜機能の保持
また本療法のモードとして次ぎのようなものがある。
 1)不定期な併用
  \CAPDの導入期(間欠的)
  ]一時的な除水不良時
^腹膜炎時(2週間程度の一定の期間)
 2)定期的な併用
  このモードはほとんどが残存腎機能消失後の場合に行う。残存腎機能消失後はつぎの3つの選択肢がある。
  \そのままで継続する。
  ]交換回数を増やす、透析液量を増やす、APD+CAPD(CCPD)を行う。いわゆるenhanced CAPDを行う。
  ^血液透析を併用する。
 我々も\を選択したり、]のうち交換回数を5回に増やすことなどはあるが、実際的に施行することを考えると、]と^を比較した場合、^の方がQOLや経済的な側面からみても優れていると思われる。この残腎機能消失後の定期的な併用もさることながら、腹膜炎時のCAPD休止も、腹膜機能温存の面からみてもより重要な意味を持っていると思う。本会議はCAPDの患者を増やすことも目的の一つである。CAPD患者が増加しない主な理由はドロップアウトの多さである。また、そのドロップアウトの大きな原因が腹膜機能の低下である。「PD+HD併用療法」は腹膜機能を温存し腹膜機能の低下を防ぐ方法の一つと位置付けており、CAPDからのドロップアウトを減らし、結果的にはCAPD患者の増加につながると思われる。しかし「PD+HD併用療法」は正統な治療法ではなく、無理にCAPDを引き伸ばすものだ等との誤解があるのも事実であり、そのような誤解を解くのも我々の仕事であると認識するべきである。




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