腹膜透析の重大な合併症である経カテーテル感染による腹膜炎は、透析液交換デバイスの発達によって減少したが、細菌が皮下から腹腔に侵入する傍カテーテル感染による腹膜炎はいまだに多い。Readらは、電子顕微鏡による観察から殆どのカテーテルの表面にバイオフィルムが付着している事を発見し、カテーテル留置術に際しての細菌の皮下への侵入とバイオフィルム形成が、カテーテル感染症の主たる原因と報告した。このバイオフィルム形成の対策としてMoncriefとPopovichらは、カテーテルを腹腔に留置した後、出口を作らずに皮下に埋没し、後にカテーテルを皮下から引き出し出口を作製するという独創的な留置法を考案した。埋没期間中に完成する皮下とカテーテルとの間の組織的な癒合が、細菌の侵入に対するバリアーとして作用する。このMoncriefとPopovichのカテーテル留置術を用いて腹膜透析を段階的に導入する方法(Stepwise initiation of peritoneal dialysis using Moncrief And Popovich technique;SMAP)は、2,001年以来わが国において爆発的に広がり、導入患者の約20にSMAPが用いられている。
感染予防対策として誕生したSMAPは他にも多くの利点を有する。SMAPを用いた腹膜透析の導入によって、段階的かつ計画的な導入が可能であり、このことは患者の精神的受け入れおよびQOLに大きく影響する。適正な時期に透析液リークの危険もなく、迅速に腹膜透析が開始できる。計画導入によって一時的な血液透析が回避でき、残存腎機能の長期維持が計れる。腹膜透析の導入に要する入院期間も極端に短縮する。このように、SMAPは導入周期の合併症を減少させ、腹膜透析の長期維持を達成し得る優れた方法であり、腹膜透析普及のdriving forceとして先遣隊的役割を担うと確信している。シンポジウムでは、全国のSMAP施行施設から寄せられたさまざまなデータを紹介し、SMAPの果たす役割について検討を加える。