日本在宅透析支援会議


教育講演

10日間のCAPDクリティカルパス運用の効果と課題 演者:立畑希代美(京都武田病院)
医療法人社団恵心会 京都武田病院4病棟 1) 同泌尿器科 2) 同糖尿内科 3) 同腎臓内科 4)
杉田扶美枝1)、外村涼子1)、立畑希代美1)、中西容子1)、温井早紀子1)、山本由紀子1)、井上均2)、五十川義晃2)、武田智美3)、武田敏也4)


【目的】
当院では2000年10月から2004年7月までの期間、慢性腎不全患者のCAPD導入期に14日間パスを運用していた。しかし、近年、対象者の多くが社会復帰を目的とされ、早期退院の需要が深まり、これらのニーズを満たすべく、術前日から10日間パスを作成した。今回、運用したパスの有用性と今後の課題について報告する。

【対象及び方法】
2004年8月から9月に導入指導を行った6症例(男性4名:平均年齢64.8歳,女性2名:平均年齢38.0歳)に、入院期間及び在宅でのトラブルについてアンケート調査を実施した。また、入院中のヴァリアンスのまとめを行い、パスの効果と課題を検討した。

【結果】
平均在院日数は、14日間パスでは21.7日であったが、10日間パスでは13.0日と短縮された。 70歳代高齢者の2症例の在院日数においては、8.0日間の差が認められた。アンケートの結果、入院期間に関しては全例において満足であるとの回答が得られた。しかし、4例においては退院後のトラブルの報告が認められた。

【考察】
10日間パスの導入で明らかに在院日数は短縮され、運用については効果があったと考えられた。しかし、高齢者の症例ではスケジュールに柔軟性を持たせ、運用する必要性があると考えられた。退院後のトラブルが発生した原因としては、スタッフ間の看護の不均一化が考えられた。10日間パスは早期社会復帰をサポートする面で有用と考えられるが、今後も定期的に検討を行い、患者用ケアマップなどの充実やスタッフへの継続した教育が必要であると考えられた。




教育講演
長期CAPDへの展開−長期維持CAPDの現状と役割
演者:保井明泰(門真クリニック CAPD支援センター)
保井明泰、岡田日佳、中村義雄
保井明泰 先生
末期腎不全の治療は透析(HD,CAPD)そして腎移植がその役割を果している。
しかし、その普及率(占有率)は、HDが90〜95%、CAPD、腎移植は5%以下にすぎない。
これは、受療者(患者)側の選択肢に十分答えられていない。この中で、今回CAPDの長期継続について検討した。

【方法】
CAPDを15年以上継続している8例とHDで20年以上継続している23例の臨床成績を比較し、血液生化学検査、腹膜機能、合併症について検討した。

【結果】
継続年数 17.5±1.7 , 25.4±3.2(年)  (CAPD , HD)
原疾患 糖尿病 両者とも 0  性別(男性) 50 , 57(%)
Ht 33.5 , 34.4(%)  Alb 3.7 , 3.8(g/dl)  BUN 55 , 76(mg/dl)
Cr 10.1 , 11.9  K 4.0 , 5.1  Ca 10.1 , 9.9  P 5.1 , 5.2
血圧(S) 130 , 140  1日尿量 両者とも 0  1日除水量 820 , 1100(ml)
腹膜機能 Ccr 49(L/週/1.73u)  Kt/V 1.53 nPCR 0.8
D/P 0.85, D/Do 0.26
合併症  除水不良の発症 5/8(63%)  腹膜炎の発症 1回/129患者月
腎性骨症  PTX施行例 4/8例(50%) , 11/23例(48%)
透析アミロイド症 CTSの手術 2/8例(25%) , 18/23例(78%)
除水不良症例には、UFPD(DAPD)などの治療を行った結果、現在はすべて通常のCAPDに復している。

【結論】
適正な体重管理(体重、血圧、食事)を継続し、除水不良、腹膜炎の予防と治療を行えば、HDに比べ遜色もなく、25年以上の継続の可能性も十分に望め長期維持透析としての役割を果せる。




教育講演
高齢・要支援患者を対象とした地域CAPD networkの構築と現状について
演者:花岡一成(神奈川県立衛生看護専門学校付属病院)
花岡一成 先生
【目的】
わが国では透析患者の高齢化が問題となっており、Activity of daily life の低下した高齢者に対する透析療法として、在宅腹膜透析療法(HPD)を施行する試みが近年始まっている。開放型病院の当院では病診・病病連携診療を活用した登録医の往診および地域の介護支援スタッフによる地域CAPD networkを構築し、HPDを実施している。本検討では過去5年間の当院におけるHPDの現状と問題点について報告する。

【対象】
平成12年1月より平成16年12月までに当院で腹膜透析治療を行った60歳以上の患者25名、脳血管障害後遺症による右半身麻痺による要支援患者(57歳)の合計26名。男性15名:女性11名。

【結果】
腹膜透析導入後、退院し得た25名の患者のうち介護認定を受け在宅診療・訪問看護を利用した患者(要介護群)19名(76%)の平均導入年齢は72.0歳。介護認定を受けていない6名の平均導入年齢は69.2歳。平成16年12月31日の時点で要介護群12名、非介護群5名がHPDを継続している(継続率:要介護群63%、非介護群83%)。最長HPD期間は要介護群56月、非介護群47月。平均HPD継続期間は要介護群20.3月、非介護群24.5月。平均入院回数は要介護群1.9回/年、非介護群1.2回/年。在宅診療・介護は体重管理・出口部感染発見などに効果的で、介護群での入院理由としては透析および全身合併症のほか社会的入院によることが多かった。

【結論と考察】
合併症の多い要介護群でもHPDの継続は可能で、在宅診療・介護は要介護患者の透析・全身管理に効果的であることがわかった。一方、長期HPDでは家族の看病疲れや精神的ストレスが問題となり、家族の精神的サポートの充実が今後の課題である。




教育講演
中性化腹膜透析液への変更後の臨床的評価
演者:水政透(福岡赤十字病院)
福岡赤十字病院腎センター1) 同看護部2) やなせ内科医院3)
水政透1)、八尋恵子2)、柳瀬哲郎3)、小野明子1)、藤崎毅一郎1)、近藤英樹1)、安田透1)、池田潔1)、金井英俊1)、熊谷晴光1)
水政透 先生
【目的】
1.  腹膜透析患者における中性化腹膜透析液に変更した際の腹膜機能の変化を検討する。
2. 医療従事者、患者の中性化腹膜透析液に対する認知度、使用感を明らかにする。

【方法】
1. 中性化腹膜透析液に変更したCAPD施行中の患者18名、CAPDを中止し腹腔洗浄施行中の患者8名を対象とした。また腹腔洗浄中で、年齢、透析期間、休息歴をマッチさせた非変更者8名をコントロール群とした。変更前後でPETを施行し、D/PCr、D/D0、除水量、CA125を測定した。2. アンケート方式で中性化腹膜透析液の認知度、使用感を調査した。

【結果】
1. CAPD中の患者では、平均観察期間は7±3ヶ月で、変更前後でD/PCr 0.71±0.08→0.68±0.08(p<0.01)、除水量2451±174ml→2531±204ml(p<0.05)と有意に変化した。D/D0、CA125には有意な変化は認めなかった。腹腔洗浄中の患者の変更前後での変化率は、除水量が110.3±8.7%であり、コントロール群(99.6±1.8%)より有意に増加した(p<0.01)。D/PCr、D/D0,CA125には変化率の有意な差は認めなかった。
2. 患者だけでなく、医療従事者でも中性化腹膜透析液の知識は不十分であった。患者の使用感では、除水量が増加し、腹部の違和感が改善した。

【結論】
腹膜透析患者では、中性化腹膜透析液への変更で、除水量が増加する可能性が示唆された。また、知識に関しては不十分であり、指導が必要であると考えられた。




教育講演
OmX:Icodextrin一日一回療法よりの検討
演者:栗山廉二郎(青梅市立総合病院)
栗山廉二郎 先生
過去一年半の間、約30症例に対して、icodextrin(ICO) 2Lを一日一回施行のPDを施行した。カテーテル設置術は外科一泊入院とした。その後、外来にて教育をしつつ、段階的にPD導入を施行した。本治療の特徴は入院期間が一泊と少ないため、仕事をしている人、子供などで家庭を空けられない主婦はもとより、高齢者に対して、入院に伴う種々の不具合を生じさせないことなどより、極めて有用と思われた。本治療では、将来的に残腎機能に応じてバック数を増やして行くことになるが、少なくとも、一年間は安全に施行出来た。在宅高齢者に対しては、有用な治療法のひとつとなる可能性がある。
本治療法は、手術から外来導入まで、極めて、容易に施行できるため、血液透析のみ扱っている施設での施行も可能となる。診療所と在宅、基幹病院の相互ネットワークを通じて、初めて、在宅長期CAPDが可能となるものと思われ、我が国で自然発生的に機能している素晴らしい、各地域での血液透析ネットワークに準じたCAPDネットワークの構築が必要と思われる。今後、在宅PDの需要は増加が予想されるが、膨れあがる医療費の大幅削減効果のあるICO一日一回療法であるが、今後、本治療法が、在宅PD治療のきっかけとなることを祈っております。

(付)定期透析症例に本治療をすると透析時間、回数の短縮化を安全に実現させることが出来る。水分摂取制限も緩和しQOLも上昇することから、高齢にて水分自己コントロール不良で、血液透析自体が危険と裏腹の症例や4時間透析が困難な症例には試みても良い治療法の一つと考えている。




教育講演

Extraneal(Ex)とAdiponectin(ADPN)―Exは動脈硬化の進展を抑制できるか? 演者:西谷隆宏(帯広厚生病院)
JA北海道厚生連 帯広厚生病院 第二内科
西谷隆宏、林 学、土井崇弘、永原大五、高橋 亨、坂本賢一、朝田 淳、鹿野泰邦


 長期CAPD療法を可能とするためには、一つにはEPSの克服あるいは腹膜を如何に長持ちさせるかという問題があるが、加えてCAPD療法に特有ではないHDに比し進展が早いと言われている動脈硬化性病変に起因する種々の合併症(心筋梗塞、脳血管系疾患、ASOなど)を如何に予防するかという点も長期CAPDを可能とする上で重要であろう。
 CAPD療法における恒常的な糖負荷はインスリン抵抗性を招き、高脂血症、糖尿病、高血圧の発症にも寄与し、強いては患者の予後に大きく関わる各種動脈硬化性疾患の進展に深く関っていることが予測される。近年、脂肪細胞から分泌されるサイトカイン、アヂポネクチン(ADPN)が抗糖尿病、抗高血圧、抗高脂血症、抗動脈硬化などの多彩な生理作用を持つことが注目されているが、透析患者さんにおいてもその病態に大きく関わっている可能性が示唆されている。我々も昨年の日本透析医学会総会においてHDおよびCAPD患者においてADPN濃度を測定し、両群ともに高値を示し、その機序として腎排泄低下による蓄積が考えられた。また透析患者においてもBMIとADPNの間に負の相関のあることを示してきた。
 Exは除水体液管理が困難となった症例に極めて有用な透析液であるばかりではなく、ブドウ糖負荷を軽減することで糖脂質代謝にも有利に働くことが予測される。また糖負荷軽減により、インスリン抵抗性を改善し、抗動脈硬化作用を持つADPN濃度があるいは増加しているのではないかと期待するが、いまだその報告はない。今回我々はExを用いた症例におけるADPN濃度の変化を検討したので発表する。





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