一般演題
在宅血液透析 −初めての経験−
演者:上村恵一(札幌北クリニック)
医療法人社団 恵水会 札幌北クリニック 透析室
上村恵一、祖山かすみ、松井博子、大平整爾、今 忠正
今回我々は、当院から170km離れた羽幌町で在宅血液透析(以下、HHDとする)を開始する機会を得たのでここに報告する.
【症例】
T氏 31歳 男性 平成6年9月 透析療法導入(現在まで透析歴は10年)、平成16年11月2日HHD開始となった.
【HHDに至る経緯】
札幌市在住のT氏は、諸般の事情により留萌管内羽幌町での透析療法を希望したが時間的、距離的条件が合わずその地での外来透析は困難な状況であった.また介助者となる配偶者(妻)が臨床工学技士として臨床経験があったということもあり、強い決意と意志を持って当院にHHDの開始を希望した.
【導入への問題点】
本人の自己管理能力不足.家事、育児、介助などの配偶者の体力的・精神的負担の増加.また羽幌町は道内でも有数の寒冷豪雪地帯であるため、緊急時の対処・冬期間の配管凍結防止措置・大雪による交通障害時の対応など雪国特有の問題.そして当院としても、手探りの状態で準備を進めざるを得ないことなどであった.
【導入過程での苦労】
HHD判定では、「あくまでも本人が介助者の臨床経験にのみ頼ることなく自分自身、自覚をもって行う」ことを大原則として導入が認められたが、患者教育の面で当院側との認識差が大きく、頻回に面談を重ねたこと、理解してもらうために色々な試みを行ったことである.HHDで使用する透析機器が諸事情により当院で使用していない機種となったため、患者教育、スタッフ教育に時間が掛かった.本人の意向に配慮して工事を他に委託したが、結局は私ども立ち会いのもとで開始2日前の突貫工事となった.困難を極めたのが当地をルートとしている医療廃棄物回収・処理業者の選定で、多大な時間と労力がかかった.
【考察】
北海道において、過疎地に住む維持透析患者の外来透析には患者本人だけでなく家族の費やす時間と労力は計り知れない.HHDの本質は、このような地域で行われてこそHHDの良さ(ADL、QOLの向上など)が発揮されるのではないかと考える.
一般演題
施設血液透析から在宅血液透析へ移行した一例
演者:小島昭彦(いたみバラ診療所)
医療法人社団 星晶会 いたみバラ診療所
小島 昭彦、下田 憲一、前川 恵一、大串 元美、松本 昭英、前川 正信
<はじめに>
現在兵庫県では透析患者が在宅血液透析を希望しても教育・支援施設が少なく、希望者も在宅血液透析へ移行しにくい環境である。当施設においても在宅血液透析の実績はなく、全く理解していなかった。本事例は透析患者本人の在宅血液透析の希望をかなえる形で実現したものである。スタッフも患者に在宅血液透析に対して理解が出来ていながったのが現状である。
<目的>
在宅血液透析移行する必要な知識・技術の習得及び在宅血液透析の利点を分析する。
<患者紹介>
A氏 女性 34歳 既婚 糖尿病性腎症 透析導入平成15年11月
<方法>
研修期間は3ヶ月とし、その後1〜2ヶ月は当施設の在宅透析準備室で自己透析を行う研修計画とした。
<結果及び考察>
1.平成17年1月から患者の意向に添った在宅血液透析を開始した。
2.スタッフは、在宅血液透析実施までの手順と実施後の状況についての知識を習得する事ができた。
一般演題
新規HHD導入教育に携わって
演者:大石範子(長寿クリニック)
医療法人 長寿会 長寿クリニック 1)、近畿大学医学部堺病院 2)
大石 範子 1)、中尾 弘美 1)、橋 計行 1)、今田 聰雄 2)
【目的】
当クリニックでの昨年1年間における在宅血液透析(HHD)新規導入例は7例であった。今回これらの導入教育においての問題点を検討した。
【対象】
男性5例、女性2例(平均年齢37.6歳)の計7例。
【方法】
訓練期間は個別に2〜3週間と設定した。訓練は患者、および介助者の双方に対して同時に施行するので、対象者の社会的背景や性格などを考慮した。
【結果】
HHD導入訓練はほぼ設定した期間で終了できた。HHDへの移行直後の問題点としては@自己穿刺、A透析機器の取り扱いの2つに大きく分けられた。@については、HHDの移行直後の緊急呼び出し例として、穿刺ミスのトラブルによるもの、穿刺に対する不安によるものがそれぞれ1例ずつあった。Aについては、訓練では施行できていたが、実際のHHDの現場では施行できなくなる症例もあった。その場合、医療者が患者宅を訪問し不安解消、および問題解決をはかるが、患者、医療者共に努力をしたが、結局はHHDを断念した症例も1例あった。大半の症例では臨床検査値の改善を認め、血圧の管理も良好となった。その結果、体調もよくなり表情も明るくなり、社会復帰が実現できている。
【考察】
HHD導入訓練は医療者と患者、介助者の双方で個別の指導方法を工夫し施行したことで円滑に進行できた。一方で本格的に在宅透析を始めると、訓練中には予測できないような問題点が生じた。それらの問題点を訓練中に予測できるような洞察力を訓練担当の医療者は努力をして、それを磨き訓練に生かすことができるようになることが必要であると考えた。
一般演題
独りで行うHHDの経験
演者:村上加恵子(三軒医院)
三軒医院
村上加恵子、牧尾健司、三軒久義
在宅血液透析が保険適応になった1998年の7月からスタッフの勧めで独りで行うHHDに踏み切った。不安もあったが、HHDをさせて頂いて本当によかったと院長先生・室長には、大変感謝している。その経験をここに紹介させて頂く。
(動機)
腎不全に対する合併症予防や自分の予後のためと言うよりは、完全職場参加をして精神的ストレスを少なくするためにHHDを選択した。さらに、家人に負担を掛けず、家庭生活を乱さないために、介助者の要らない独りで行うHHDの必要性があり、院長先生・室長の寛大なる理解と医院の協力を得て実現する事になった。しかし実際に行うにあたり問題点がいくつかあった。
(問題点)
@穿刺・抜針の方法 AHD中の血圧低下や下肢の筋痙攣時の対応 B安全面での問題 Cエリスロポエチンや活性型ビタミンD3注射薬の問題 D廃棄物の問題などである。
(対策)
CDについては、医院に勤務しているため医院で行うようにした。@ABが心配な点であったが、いろいろな工夫を凝らし安全に行える方法を考えた。一番大切なことは、決して無理をしない。万が一何か起これば回収して翌日に行う。という基本をしっかり遵守することである。
現在、独りで行うHHDをはじめてから7年7ヶ月経ったが、特に大きな事故もなく順調に経過している。そして、何より、完全な職場参加をすることにより仲間になりきれない苛立ちやそこから来るストレスもなくなり仕事に対する達成感を得られるようになり 自分の人生の中で得たものは大きい。
本人の強い意志と熱意があれば、独りで行うHHDは、決して難しいものではないので、実際に行っている写真を示説する。
一般演題
「在宅透析を始めてみて」
演者:北川祥二(長寿クリニック患者会)
透析歴は約10年で、在宅透析を始めて1年になろうとしています。
年齢は46歳です。家族は妻と1歳の女の子との3人家族です。子供がまだ小さいのでがんばってより長く仕事を続けたいと思っています。在宅透析に踏み切った理由の一つはそこにあります。
在宅透析のことを知ったのは妻が透析に携わる看護士で、興味はないかと言われてからです。はじめは実感がわかなかったと思います。ことあるごとに家内から在宅透析について知識をもらっているうち興味がでてきて一度話を聞きに行ってみようと言うことになりました。
興味を持った理由は
1.なるべく元気に仕事を続けたい。
2.自分で自由な時間調整ができる。
3.緊急透析の対応
インターネットや雑誌で「長寿クリニック」を知り、妻と一緒にお話を伺いに行きました。在宅透析について詳しい話をしていただきある程度出来そうかなぁ、という印象を持ちました。これには家内が看護士をしているからと言う理由もあると思います。ただ、訓練期間というものが2週間ありこれをクリアするのには少し苦労しました。
現在は一日おきに4〜5時間透析をし、体調は特に問題なく過ごしています。
在宅透析の長所
1.体調が良くなる。
2.自分で自由な時間調整ができる。
3.ドライウェイトを楽に維持できるようになればドライウェイトを下げて血圧を安定させることができる。
4.自分の状態をしっかり把握でき決して他人任せにならない。
5.緊急透析の対応
在宅透析の短所
1.訓練期間が長期にわたること。
2.家族への負担が大きい。
今後の希望・要望
機械は透析機と水処理機と2台有ります。これが2台で約畳1畳分くらいになるので、もう少し小型化できないかという点です。それと透析中は横になっていることが多いですが横になった状態では機械の画面が見にくいので改善してほしいです。
それから月に1回「長寿クリニック」を受診しますが、大阪の堺にあるのでやはり遠いです。近くの病院で受診できるようになればと思います。出来ることなら病院同士横の連絡があってデータのやりとりなどをスムーズに出来ればいいなぁと思います。
一般演題
「患者一人からはじめる在宅透析」
演者:松浦基夫(市立堺病院)
当院では2004年1月から一人の在宅透析を開始し1年が経過した。在宅透析では生活パターンにあわせて透析を行なうことができるため、多くの患者が1回5時間以上の透析を行なっており、週3回以上の透析を行っている患者も少なくない。充分な透析は長期予後の改善をもたらし、患者は在宅透析という治療を自ら選んだという自負を背景に積極的な人生を歩んでいる。これらの事実が多くの透析専門医・スタッフに認められているとはいえず、在宅透析はいまだに誤解の下にある。
1)素人が透析をするのは危険・透析は医療の管理下に行なわれるべきである:在宅透析30年以上の歴史の中で大きな事故はなく、一方で施設透析が安全とはいえない。
2)在宅透析は採算がとれない:患者一人あたり月77000円程度の利益がある。設備投資は不要であり、軌道に乗れば必要なのは月1〜3回の診察と必要物品の発注などである。また、透析回数が増加してもダイアライザー・透析液などの材料は使用数だけ保険請求が可能なため、採算性に影響しない。
3)在宅透析には特別なシステムが必要である:透析装置のレンタルにおいて、「透析液供給装置加算」8000点と同じ価格でフルメンテナンス契約を行なうことにより、医療機関は透析装置の管理から解放される。また、必要物品の宅配も業者に委託できる。
4)24時間緊急対応が必要である:確かに深夜や休日にも透析が行なわれることもある。実際には、トラブルの多くは電話で解決可能であり、携帯電話で複数のスタッフと連絡がとれればよい。大きなトラブルの場合は透析を中断して、問題を解決した上で翌日再度透析をするという方針を採ることもできる。
一般演題
在宅血液透析から学んだ事と将来展望
演者:大浜和也(埼玉医科大学)
埼玉医科大学病院血液浄化部 大浜和也、山下芳久
同 腎臓内科 菅原壮一、鈴木洋通
【はじめに】
国内において透析を施行している慢性腎不全患者数は24万人を超えている。そのうち腹膜透析を施行している患者数は1万人とも言われており、在宅血液透析を行っている患者数は100名程である。在宅血液透析の“壁は厚い”の如くこの壁を何とかしなくてはスタイルに変化はないのである。
【当院での在宅血液透析導入から現在まで】
当院において在宅血液透析が開始したのは5年前であった。1名の患者から強い要望がありスタッフも初めての経験であった事から、“やめたほうがいい”、“血まみれになっていたらどうする”など様々な意見も飛び交った。しかし、蓋を開けていざスタートしたら患者の血液データは良好になり、今日まで事故もなく至っている。遠くに小さな日の光が見えてきたような感じであった。初めて導入した患者は以前にも増して元気になり現在も仕事を続けている。私たちはこの患者から多くのことを学びとった。昨年9月に導入になった4例目の患者は自分でCAPDを行っていたが、腹膜機能低下の為に血液透析を施行。自宅で出来る在宅血液透析はないかと探し求めて研究会へ参加、会へ参加していた当院の技士と隣席に座った事がきっかけで当院にて在宅血液透析をおこなう事になった。自立を目指してすべて自分一人で出来ないかと母親には頼らずに訓練を行っていた事が功を奏して今はすべて一人で行えるようになった。昨年5人目に導入となった患者は1ヶ月の短期導入を最初から希望、今までのスタイルを変え当院の宿泊施設に1ヶ月宿泊、事前学習などを導入、1ヶ月で終了し順調にスタートした。
【今後の展望】
在宅血液透析はすべて自分で行う事から誰でもが可能な治療とは言いがたい。患者さんとの面接で“段取り”、時間がどれ位かかるか、患者自身で出来るか否かの判断を行う。したがって、スタートするには様々な“壁”を取り払う必要があり、そこから新しいスタイルが生まれるのである。今後は5名の患者から学んだ事を教訓に2年後には10名以上の患者を導入して行く。
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