日本在宅透析支援会議


シンポジウム
治療法の選択に影響を与える医師の説明−informed consent or choiceのあり方−
演者:大平整爾(札幌北クリニック)
大平整爾 先生
現代医療は「自分のことは自分で決める、決めてよい」とする自己決定(権)を根幹としている。この大原則を基に患者には自らの医療情報を知り得る権利が生じ、医療側にはこれを過不足なく提供しなければならない義務が課せられる。医療情報の多くは「悲しい、悪い、困難な情報」であり、「真実は残酷なこともあるが、それを伝えることが残酷であってはならない」「事実を形式的に伝えるだけでは不十分である」などと言われることは重々承知していても、実際の現場では様々な困難が伴うものである。多くの医師にとって患者がinformed consent またはchoiceに至るまでの過程に種々の説明を与える作業は、ストレスに満ちたものでもある。医師から患者への説明には、(1)必要かつ十分な情報の提供が求められるが、欠落や偏向はないかを常に危惧せざるを得ないし、(2)公平な(非誘導的な)選択肢の提示が望まれるが、得意なこと・出来ることを強調し過ぎていないか、セカンドオピニオンなどへの紹介の労を厭っていないかなど問題は少なくない。 「合理的医師の基準」とされてきた説明の及ぶべき範囲が「合理的患者の基準」へと社会の趨勢が移行してきている現状を、医師が認識しているか否かも問われている。患者の自発性を最大限に尊重して選択肢について医師は患者に積極的に指示しないという消極的主義は時期尚早であって、実務的には医師は自らの信じる選択肢を患者が選ぶように助言する対話主義が妥当に思える。所謂「共同の意思決定」なのであるが、ここではご都合主義で強制的な父権主義は排除されなければなるまい。医師からの患者への説明が適切公平であるためには、医師は幅広い人間性を身に付けつつ意思疎通の技を練磨しなければならと痛感している。患者が治療法を選択するに際して医師の一言一言が深く影響するのであり、ここに大きな責任を自覚しなければならないであろう。




シンポジウム
「医師と患者のコミニュケーションをよりスムーズにするために」
演者:松村満美子(腎臓サポート協会代表,医療ジャーナリスト)
松村満美子 先生
 インフォームド・コンセントの必要性が言われ出してだいぶ経つが、いまだ患者は、「先生におまかせします」、医師は、「私に任せておけばよいのだ。」といった患者と医師の関係の方が、残念ながら全国的にみると、多数を占めているといっても過言ではない。

 そんな中、日本でインフォームド・コンセントが1番確立しているのが、腎不全患者と医師、特に保存期から、血液透析を導入した患者と医師が、1番インフォームド・コンセントが旨くいっているケースではなかろうか。

 透析に入ってからでも、患者自身が自分のデータを管理し、医療スタッフと、やりとりをしながら、よりよい透析生活を目指している。どれだけ水をひけばよいかなどの会話はよく聞かれる。

 CAPDは,食事制限がHDに比べれば緩やかではあるが、1カ月に1回しか主治医の指導を受けられないと言う不安もある。HDは、週に3回、患者同士の情報交換もできるし、医師を始め医療スタッフとも接触が可能だが、CAPDや家庭透析の人は情報が入ってこないので不安もおおきいという。

 医師と患者が、病気をよりコントロールするためには、患者は正確に身体の状態を医師に伝達する必要があり、医師は、患者にきちんと理解できるように説明する義務がある。

 特に、月に一回しか受信する機会のない、CDPDや、家庭透析の場合は、日ごろのデータをきちんと取り、医師が一見すれば、患者の身体症状が把握できるように工夫したものを提出できるようにしておくとよいのではなかろうか。また、1カ月の間に起こったトラブルや変化、日々疑問に感じたり、診察時質問をしたいと思ったこともメモにしておき、要領よく質問して医師を拘束する時間を長引かせない配慮も、患者には求められる。

 医師も患者も相手の立場を思いやるところからより良いコミニュケーションが確立するものと思うがいかがなものであろうか。




シンポジウム

企業から見た「在宅透析療法の認知度とインフォームドコンセント」 演者:糸井暢子(バクスター株式会社)

日本透析医学会の「わが国の慢性透析療法の現況」年次報告では,慢性透析患者数が年毎3−5%増加しているなか,腹膜透析患者の割合は1997年をピークに低下傾向にあり, 米国のデータ1から,日本における腹膜透析の普及が諸外国と比して低いことが示されている.その原因としてさまざまな要因が挙げられているが,全腎協の調査結果2から見ると,この10年で血液透析患者における腹膜透析療法の認知度が低下(72.8%⇒66.9%⇒50.4%)してきており2,腹膜透析が末期腎不全に対する治療の選択肢として認知されていない,すなわち保存期あるいは療法選択時に腹膜透析に関する説明が十分に成されていない可能性が懸念される.

ここでは,「腎臓病なんでもサイト」(http://www.kidneydirections.ne.jp)登録者へのアンケート調査結果をもとに,療法選択肢に関する情報提供と腹膜透析の導入動向に関する考察を試みた.本サイトは,腎臓病に関する情報提供を目的としたホームページで,2004年12月末現在,月間訪問者数>10,000,登録者総数>12,000を数え,登録者は,腎臓病とその治療法に関する情報を平均以上に得ていると推察される.

【結果】
@登録時,腎臓病全般や血液透析に比して,腹膜透析・腎移植に対する認知度は低かった
A本サイトへの登録目的として,病気やその治療法に関する情報入手を挙げた人が多かった
B登録者の多くは,登録時に病院で腎臓病と診断され,食事療法・薬物療法を受けていた
C登録後に透析を開始した場合,腹膜透析の選択率が全国の新規透析導入における腹膜透析患者の割合より高かった
Burkurtら(2001)3やKorevaarら(2003)4の報告により,透析療法に関する情報提供により腹膜透析の導入が増加することが指摘されていたが,日本でも同様の傾向が認められたといえよう.

今後,医療情報に対する患者ニーズが高まっていくことが予想されるなかで,腹膜透析に対する正しい情報を提供することでその普及の一助となりうるのであれば,より一層努力していく所存である.

1USRDS 2004 Annual Data Report (http://www.usrds.org/adr.htm); International Comparisons,21991年度・1996年度・2001年度血液透析患者実態調査報告書,3ISPD (2001); RESULTS OF PROSPECTIVE MULTINATIONAL STUDY WITH THOROUGH EDUCATION ON THERAPY SELECTION,4Kidney Int 64: 2222-2228 (2003), Effect of starting with hemodialysis compared with peritoneal dialysis in patients new on dialysis treatment: randomized controlled trial





シンポジウム
「透析者から見た在宅透析の広報の仕方とインフォームドコンセント」
演者:池永孝夫(大阪腎臓病患者協議会)
池永孝夫 先生
透析者からの在宅透析について
●腎不全から透析療法が必要になると、病院透析と在宅透析(家庭透析・CAPD)に選別出来るが、医療者側からの説明はどうか
●家庭透析でのメリットはどのようなものか
●年齢や健康保持の問題について
●医療者側との日常の係わりあい 緊急時の連絡や検査について
●家庭透析の場合での介添者の問題と、住宅問題について
●家庭透析の場合の設備方法と、医療者側と透析者の経済事情について
●一方CAPDではどのような問題があるのか
以上の事例について述べてみたいと考えております。




シンポジウム

看護側が受け持つ在宅透析の説明と同意 演者:中尾弘美(長寿クリニック)
医療法人 長寿会 長寿クリニック 1)、近畿大学医学部堺病院 2)
中尾 弘美 1)、大石 範子 1)、橋 計行 1)、今田 聰雄 2)


 インフォームドコンセント(IC)とは、「十分に情報を提供された患者が、自らの健康管理についての方向決定に参画するという過程」である。その基盤は自己決定権の尊重という今日的な理念にある。

 透析療法の選択時においてICを行うことはとても重要である。通常、透析導入前の患者に対する治療方針についてのICは主に医師からなされる事が多い。しかし医師によるICだけでなく、透析専門看護師も患者やその家族と接する機会が多い立場からICを行うことは重要であり、合理的である。そのためには、われわれ透析専門看護師が各透析療法の特徴を十分に理解し、適切な説明を行えることが必要である。

 当クリニックでの透析療法の選択肢として、施設透析および在宅透析である腹膜透析と在宅血液透析がある。患者が在宅透析を希望しそれを行う場合の注意すべき点として、患者の家庭環境、性格なども勘案し適切な指導、教育を行っていくことが大切である。したがって、ICは医師、透析専門看護師、臨床工学技士、医療事務職(必要であればケアマネージャー、介護福祉士)などの多くの職種で多方面から行うことが望ましく、そのために医療側は互いに意思の疎通を図ることが肝要だと考える。

 今回のシンポジウムでは、看護側が受け持つ在宅透析の説明と同意の問題に加えて、透析専門看護師の立場から患者およびその家族の方々とのかかわり方について考察したい。





シンポジウム

在宅透析(CAPDと家庭血液透析)におけるインフォームドコンセントの本質と治 療法の選択
演者:今田聰雄(近畿大学医学部堺病院)
近畿大学医学部 堺病院 腎・透析科
今田聰雄(イマダ アキオ)、有山洋二、玉井良尚、片畑満美子
今田聰雄 先生
 患者さんの「知る権利」と「自己決定権」に基づいて医療は行われなければならない,ということが認識されるようになって久しい.厚生労働省もこのことを押し進める方策として,保険で「入院診療計画」加算として診療報酬で評価している.しかし医療の現場ではインフォムドコンセント(IC)は言葉や文書だけ形式的なものになってはいないだろうか.理由の1つに法的,あるいは倫理的な規制の解釈と現実の治療効果が医療の進歩・発展によって変わることによるICの難かしさがある.年間3万人以上の新規導入を行う透析療法では,原疾患,年齢,透析法だけでもICに必要な資料は膨大となり困難さを増加させている.

 在宅透析に対するICの難しさは,まず医療環境として在宅透析を支援できる施設と在宅透析患者数が少ないこと,社会情勢としての核家族化した家庭環境がある.CAPDは特有な合併症があるとしても社会復帰を望む透析者や高齢透析者にとっては安全な治療法であり,30年以上の透析人生の最初に選択すべき療法として位置付けられるものである.また家庭血液透析は介助者と経済的負担を考慮しても自己管理による適正透析が可能な療法である.これらを踏まえて現実的かつ具体的なICの進め方が必要である.しかし,患者さんに社会保障の話はしても在宅透析の在り方や医療経済について話のできる医師・看護師はほとんどいない.

 国立の医療施設も独立法人化されて,経済的な面からの医療制度の改革は,特に透析療法に厳しい.そのことは透析者にも医療費負担を強いることで明かであり,さらに高額な負担を制度化して強制してくる可能性もある.このことも明確に示すことがこれからの透析導入時のICには必要である.さらに重要なことは,医師のみではなく看護師,臨床工学技士をはじめとする透析医療チ−ム全体による,それぞれの立場から,しかし同一の視点と内容によるICが時間をかけて行われることが大切である.





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