日本在宅透析支援会議


教育講演
医療制度改革と高齢者医療および介護保険の現状
演者:中尾正俊(大阪府医師会理事)

中尾正俊 先生
[T]医療制度改革の論点
社会保障給付費、とりわけ医療給付費は、今後とも経済の伸びを大きく上回って増大する見込みであり、社会保障制度及びわが国財政双方の持続可能性を確保していくためには、医療給付費の思い切った抑制が必要。

(1)医療制度改革の具体的論点
1.公的医療保険がカバーする範囲の見直し
2.世代間の負担の公平
3.効率的で質の高い医療提供体制の構築
特に医療提供体制の再構築・効率化には「長期入院の解消」があり、入院から介護・在宅医療への移行。また、新しい高齢者医療制度を創設し、給付の負担をわかりやすいものにする。

(2)在宅医療の推進
1.在宅医療の中心的役割を担う主治医の機能の発揮
2.多職種協働によるチームでの在宅医療の推進
3.患者による在宅医療の選択の妨げとなっている原因の除去
4.地域の在宅医療に関する情報提供の促進
5.居宅以外の多様な居住の場での在宅医療の提供

[U]介護保険制度
(1)介護保険制度の理念
  地域ケアの観点から患者をなるべく地域に戻すように。
1.自立支援
2.在宅重視
3.利用者の選択

(2)介護保険制度改革
医療ニーズの高い重度要介護者の在宅生活支援や介護施設などでのターミナルケアなどが課題。高齢者医療制度には保険者再編などの問題もあるが、ケアマネジメントなど多職種の専門家が高齢者を支える介護保険の仕組みは高齢者医療にも適応が可能。
1.地域包括支援センターと在宅介護支援センターとの関係
在宅介護支援センターは相談機能しか持たない。在宅介護支援センターが機能しなかったのは、居宅介護支援事業者と何ら機能が変わらなかったから。地域包括支援センターでは、地域医師会などが参加する運営協議会が重要。
2.新予防給付について
新予防給付サービスをやるように命令するのは介護保険制度の理念と異なる。本人の自己実現のため医師も一緒になって考える作業が重要。
  介護保険制度改革では、要支援1と要介護1のうち心身状態が不安定だったり、認知障害がある人たち以外(要支援2)を対象に「新予防給付」を創設。
医療の中で検査をし、診断して治療するという概念のもっと前に、医師としてどう絡むのかが、新予防給付のなかでは期待されている。利用者に目的を持たせて意欲を引き出すことも「主治医機能」の一つになり、生活習慣の改善事業でも役立つ機能。




教育講演
高齢化社会におけるPD療法の役割
演者:菅 朗(天神クリニック)

菅 朗 先生
 高齢血液透析者が増加し、種々の問題をかかえている。当院では、透析困難症や通院困難な血液透析者を腹膜透析に移行することで自宅にて安全にPDが出来ないかどうかを検討している。高齢の血液透析患者をPDに移行し、長期社会的入院をせずに在宅復帰し、施設の短期入所を利用しながら生活をするというクリティカルパス作りを試みている。順調にPD導入できれば早期に退院のためのケアカンファを開く。関わる訪問診療部の看護師ケアマネージャー、ヘルパーと家族、患者本人で開催する。そのカンファで在宅系施設の退院前関与について話し合う。訪問診療部の看護師のPD操作や全身管理のやり方、ヘルパーの関与などが具体的に決まったら、翌日より実際に退院前関与を開始。在宅復帰を支援する。その間ケアマネージャーが退院後のケアプランを立てる。介護度にも依るが、家族の介護負担軽減目的のため、ショートステイを必要に応じて組み込む。退院後患者宅にて確認のためのケアカンファをもう一度行う。診察は週1回の往診で対応。出口部の管理は訪問診療部のCAPDナースによるフィルム法で行う。在宅で最も問題になるのが緊急対応であると思われるが、問題が起こった時には、患者もしくは家族が先ずは訪問診療部に連絡。看護師が重症度を判断し、クリニック対応ですむ時には主治医に連絡。腹膜炎など重傷度が高い場合には、直接センター病院へ連絡。救急車対応で、センターへ搬送を予定している。幸いにもいきなりセンター対応という事例はないが、症例が増えてくると、当然ありうるものと考えている。このように医療、介護の連携と、センターとクリニックの病診連携により、安心にして高齢者の腹膜透析が実行できると考えている。





CAPD関連腹膜炎・出口部感染症検討委員会 報告
CAPD関連腹膜炎・出口部感染の最新情報
演者:今田聰雄(近畿大学医学部堺病院 腎・透析科)

今田聰雄 先生
 在宅透析の主流であるCAPDも開始されてから21年が経つのに施行者数は、常に全透析者の5%前後である。普及しない最大の理由はCAPDが知られていないことと、CAPDに特徴的な合併症を警戒し過ぎていることである。特に腹膜炎・出口部感染、あるいは長期施行例にみられる被嚢性腹膜硬化症の発生が警戒すべき合併症の対象とされている。そこで「CAPD関連腹膜炎の発生と治療に関する検討会議」を設立、(財)日本腎臓財団との共同研究として、'02年10月から'04年9月の2年間に発生した腹膜炎・出口部感染症の発症数とその原因、起炎菌、治療法、予後さらには段階的導入法(SMAP)や自動化腹膜透析(APD)との関連を調査した。その結果をCAPD関連腹膜炎・出口部感染症の最初の調査である1986年および8年前の1996年の2回の調査結果と比較してその変化を考察した。
 46施設が参加した。対象症例数は2,086名(わが国のCAPD症例の17.4%)であった。腹膜炎の発症率は1回/71.9(10.6〜594.0)患者月(M)であり1986年の22.1(8.1〜22.6)M,さらに1996年の53.3(20.4〜272.6)Mに比べて著名に減少していた。しかし出口部感染症に関しては1回/34.8(8.2〜285.5)Mの発症で、1996年の20.1Mよりは改善したが、1986年の38.7Mよりも悪かった。SMAP施行で1回/23.7M、未施行は1回/35.6Mであり、SMAPも含めて出口部ケアが研究されているのに期待を裏切る結果であった。発症率には各CAPD施設間で大きな差があったが、CAPDの管理人数やAPDの施行には関係が無く、性別では腹膜炎は女性、出口部感染症は男性の方が発症頻度は低かった。また、年齢では40歳代の発症率が低く、高齢になるほど増加していた。腹膜炎発症率が驚異的に減少した理由は20年間にもおよぶCAPD関連周辺機器の改良や開発、またCAPD施行施設の専門スタッフによる患者さんに対する感染症予防の教育が充実してきたことであろうと思われる。





ワークショップ
安心して使える透析装置とダイアライザー
演者:會田伸彦(日機装株式会社 医療機器カンパニー 事業推進第一部)

會田伸彦 先生
透析装置
 当社は国内における透析装置メーカーのパイオニアとして、様々な透析装置を製造・販売してきた。透析装置は装置が確実に動作しているかをセルフチェックする機能を有しており、特に除水制御システムの動作監視機能の充実に注力してきた。

・最新の透析装置における除水制御システム監視機能(抜粋)
@UFRC自己診断機能
Aポンプ吐出精度連続監視機能
B電磁弁締め切り検知機能

最新の個人用透析装置DBB-73/27、および透析用監視装置DCS-73/27では、これらの除水制御システム監視機能に加え、生体情報モニタのひとつである「ブラッドボリューム計」を採用した。本機能は透析療法中の急な血圧低下を防止することに貢献する可能性を有し、安全な透析療法実施の一助となっている。

ダイアライザー
現在当社では、独自の技術により開発したポリエステル系ポリマーアロイ膜(PEPA膜)を使用したダイアライザーFL seriesと、親水化PEPA膜を使用したFD seriesを販売している。親水化PEPA膜を用いたFD seriesには、スタンダードタイプであるFDXと、低分子量タンパク領域の除去性能に優れたFDYの2タイプがある。FD seriesの特長は次の通りである。

@低分子量タンパク領域までの優れた溶質除去性能 (FDX<FDY)
A最小限のアルブミン漏出量
B良好な生体適合性

 これらの特長により、日機装社製フォローファイバーダイアライザーFL seriesおよびFD seriesは、「安心して使えるダイアライザー」として、患者さんのQOL向上に貢献できる製品である。





ワークショップ
ポリスルホンダイアライザーAPSの特徴と今後の展開
演者:高橋 卓(旭化成メディカル株式会社 透析事業部 学術部)

高橋 卓 先生
旭化成メディカルは、日本で最初に中空糸型ダイアライザーを1974年に再生セルロース膜で開発し、以来PAN、改質セルロース、ポリスルホン膜と、除去対象物質の拡大、生体適合性向上膜の要望に合わせ開発を行ってきた。
現在では、透析療法は、透析技術、器具の進歩により透析患者様の延命のみで無く、いかに動脈硬化症、透析アミロイドーシス等合併症の進展を抑制し、QOL向上を図るかが重要となってきている。透析液水質の清浄化、治療モードの多様化と共に、ダイアライザーメーカーとして、より良い生体適合性、β2-MGをはじめとする低分子量蛋白の適切な除去、アルブミンロスの抑制、更に、透析治療モードの多様化に合せた透析膜の開発が求められている。今回は、そのような要求により開発されたポリスルホン膜APSダイアライザーについて特徴を紹介する。
APSダイアライザーは、低分子量蛋白の除去性能に優れた高性能膜であり、その特長は、シャープな分子量分画性、優れた生体適合性、秀でた抗血栓性・残血性である。98年の本格販売以降、数多く臨床で使用され、現在までに様々な臨床症状の改善が報告されている。
また、APSは、除去性能、生体適合性の更なる向上を目指し、改良に取り組んでいる。昨年、中空糸の形態をウェービング化し、同時に容器形状の改良を行い、透析液の流れを均一化することにより小分子量物質の除去性能を更に向上させたAPS−Aシリーズを発売した。また、抗酸化作用を有するビタミンEをAPS膜にコーティングしたVPSシリーズについても昨年秋に上市、販売を開始した。
今後も、APSは、患者様のQOL向上に貢献していくため、様々な製品ラインナップを展開し、進化を続けていく予定である。製品開発状況、及び、今後の展開についても紹介する。





ワークショップ

透析器に求められる安全性と機能
演者:日高正人(ニプロ株式会社 透析研究室)

日高正人 先生
日本国内の慢性透析患者数は24万人を超え、国内で使用されている透析器は3,500万本/年に達し、その種類は多種におよんでいます。また、長期透析患者の増加に伴い透析アミロイド症などの透析合併症がますます重要な問題となってきており、透析器の開発は優れた生体適合性と生体腎同等の物質除去性能(小分子量物質から低分子量蛋白領域までの物質をバランス良く除去する性能)の点から検討されてきました。
われわれは、トリアセテート(CTA)を膜素材とした「FBシリーズ」とポリエーテルスルホン(PES)を透析膜素材とした「PESシリーズ」の透析器の開発を行ってきました。
「FBシリーズ」は、1)経時変化のない安定した除去性能,2)小分子物質から低分子量蛋白領域までのバランスの良い除去性能,3)抗血栓性を含む優れた生体適合性を特長しており、「PESシリーズ」は、1)ポリスルホン(PS)と同等のβ2ミクログロブリン除去性能,2)埋め込み型医療機器にも使用されている材質を透析膜材質として使用した優れた生体適合性を持つ透析器であることを特長としております。
また、ダイアライザー製造に求められる品質と安全性を「徹底したオートメーション化による環境管理」や「製造から滅菌まで一貫した製造工程管理」で実現しています。
今後も更に高い安全性と機能性をめざし透析器の開発を行い、透析医療に貢献できるよう努力していきたいと考えております。







ワークショップ
透析装置の自動化について
演者:前田成臣(株式会社ジェイ・エム・エス 第二営業部 )

前田成臣 先生
近年、透析治療の現場において患者の高齢化、糖尿病患者及び長期透析患者の増加、合併症の増加などで透析スタッフは多忙を極めている。
一方、医療の安全性に対する意識も高まっており透析施設は質の高い医療を提供し、患者さんのQOL向上に努めなければならないという相反した現状がある。
我々、JMSではこの様な状況に応えるべく透析業務の標準化を目指し、従来は手動で行われていた手技を自動化した新型コンソールを開発した。
この新型コンソールは清浄化された逆濾過透析液を使用するため、透析液の清浄化は必須条件であり、RO水から逆濾過透析液までの主要箇所に水質基準がありET値と細菌数が定められている。
この新型コンソールには水質基準が定められていることは前述した通りであるが、特徴はプライミング・脱血・補掖・返血を自動化しており、これらの操作はワンボタンで行うことができる。中でもプライミング・補液・返血については、清浄化された逆濾過透析液を使用することが特徴的である。透析を施行する中で、脱血時と返血時の治療前後が最も忙しい時間帯であると思われるが、この新型コンソールは脱血と返血をワンボタン操作で行え複雑な手技が必要ではなくなるためスタッフの方々は患者さんに注力していただくことが可能となり安全性が向上すると考えられる。
補液操作の手技についても他の手技と同様でありワンボタン操作で補液操作を行うことが可能である。
これらの手技を自動化することで、従来の複雑な手技を行うことが必要なくなるためスムーズに操作を行えヒューマンエラーの減少が可能となると考えられる。
また、この新型コンソールは液抜き機能も標準装備されており、透析治療後の血液回路やダイアライザー内に残った液を廃棄する方法は手間がかかり感染症の患者さんであれば、感染リスクも高くなってしまう。液抜き機能はコンソールの除水機構を用い、ダイアライザーを介して残液を排除するため非常に簡便に行うことができ、感染リスクの低減に貢献することが可能となり同時に廃棄物の軽量化も行うことができるため、コスト削減にもつながると考える。
昨今の多忙な透析現場において、透析治療前後の作業領域や透析中の治療領域の中で自動化されたコンソールは透析業務を標準化することでスタッフの皆様の安全性を高めることと作業性を向上させることで省力化に貢献できると考えられる。




ワークショップ
わが社の透析システムによる海外での在宅血液透析への取り組みについて
演者:工藤俊洋(フレゼニウス メディカル ケア ジャパン株式会社 マーケティング部長)

工藤俊洋 先生
在宅血液透析(HHD)は1998年に保険収載され、また患者の医療の質への貢献という観点で様々な利点があるにもかかわらず、我が国では依然患者数は100名強という状況である。
欧米においても、Kt/Vに示される透析量の確保、高血圧抑制、循環動態改善、栄養指標や貧血の改善、AGEsやホモシステインといった尿毒素の低減効果、脂質改善、カルシウム・リン積の低減、など連日・長時間・夜間透析による効果は報告されている。
院内の設備も削減でき、患者にとっては遠隔地や離島でも月に数度の通院だけで治療を可能にし、腹膜透析(PD)のような在宅療法による利点はあり、患者の社会復帰がし易い療法であろう。 厚労省が在宅療法を支援する方向性を示唆しているが、その流れに沿ったものとも言える。
一方解決すべき課題も多く、本療法普及の妨げになっていると思われる。 例えば、穿刺、患者自己管理と家族の協力、治療中の血圧低下などへの対処、EPOなどの注射剤の投与、医療器具の廃棄問題といった患者側の課題や、保険点数の充実度、24時間体制といった医療施設側の課題もある。
我が社では欧米や豪州で、"The Continuum Program"という在宅のHDとPDを支援するプログラムを実施している。 医療の質の向上に貢献する製品の供給だけではなく、患者や医療施設への教育サポートなども包含されている。 我が国でのHHDの普及に少しでもお役に立てるように、今回海外での我が社の在宅支援プログラムの内容をご報告したいと思う。
 



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