日本在宅透析支援会議


ランチョンセミナー
CAPD療法の長期維持(10-15年間)を目指して
演者:窪田 実(貴友会王子病院 内科)

窪田 実 先生
CAPDがわが国に上陸して、20余年が経過した。CAPD療法は患者のQOLを維持できる透析療法としてわが国に定着したが、その透析療法における占有率は予想外に伸びず、3-5%に止まっている。わが国のさまざまな透析医療事情がその理由と考えられる。しかし、昨今の医療費削減政策、在宅に医療の現場が移行しつつあることなどから、在宅透析であるCAPDが再び脚光をあびている。高齢患者、糖尿病患者に対するCAPDの利点も確認され導入症例が増加している。近い将来、CAPDの占有率が10%になる日が来るであろうことが期待されるが、患者が、優れたCAPD療法の恩恵を十分に受ける事ができるためには、合併症の少ない長期継続が可能なCAPD療法が必要である。そのためには、カテ−テル関連合併症の予防や適切な治療、感染性合併症や透析液による弊害を低減することによる腹膜の温存、患者の在宅治療に対する支援など、さまざまな条件を整えていくことが必要である。
CAPDおよび在宅血液透析の啓発と支援を目的としたJSHDのランチョンセミナーでまさしくタイムリーな演題を頂戴した。"CAPD療法の長期維持(10-15年間)を目指して"将来に活かせる意見と話題を提供できたらと思っている。





ランチョンセミナー
透析患者の脳,心,血管合併症を予防する適切な降圧薬の使い方
演者:熊谷裕生(慶應義塾大学病院)

慶應義塾大学医学部腎臓内科
熊谷裕生、大波敏子、飯ヶ谷嘉門、滝本千恵、佐方克史,大島直紀,林 晃一,猿田享男
熊谷裕生 先生
透析患者において,収縮期血圧が高いほど,また拡張期血圧が低いほど,すなわち脈圧が大きいほど,脳心血管イベントが多いことが,琉球大学の井関らの9年間の大規模試験から明らかにされた(Kidney Int 2002;61:717-726).2005年のK/DOQIのガイドラインは,透析患者における降圧目標を,透析前血圧<140/90 mmHgおよび透析後血圧<130/80 mmHgと提唱している.
 高血圧は有効循環血漿量の過剰のみで決まっていると考え,除水し心胸比を減少させることだけで降圧しようとする透析医師がいる.しかし血圧は「循環血漿量と末梢血管抵抗の積」で決まる,すなわち動脈硬化,レニンーアンジオテンシン系や交感神経系亢進も高血圧に関与しているので,心胸比が調整できたら適切な降圧薬を投与することが必要である.
透析患者においても,降圧薬の中心はアンジオテンシンII受容体ブロッカー(ARB)またはカルシウム拮抗薬である.Efratiらの研究で,ACE阻害薬を服用している透析患者は服用していない患者よりも生存率が高かった.また私どもは,高齢透析患者の予後を多変量解析により調査し,糖尿病・透析後低血圧・血清アルブミンの低値などのほかに,ACE阻害薬やARBを使用しなかったことも危険因子であることを報告した(透析会誌 2004;37:131-133).埼玉医大の鈴木は,CAPD開始後2年間の観察で,バルサルタンは患者の尿量や,腎および腹膜のクレアチニン・クリアランスを良好に保つことを報告した.
ARBはACE阻害薬と異なり,腎機能障害があっても減量の必要がなく,また透析膜で除去されないので増量の必要もない.ACE阻害薬のようにPAN膜によるアナフィラキシーショックも少ないので,ARBはACE阻害薬よりもすぐれている.ただし,ARBもACE阻害薬も貧血には注意が必要である.
 私どものラットの実験においてARBは末梢の腎交感神経活動を低下させ,また延髄の交感神経中枢のニューロン(神経細胞)の電気活動を低下させた.交感神経系の亢進は心血管イベントの危険因子なので,これを低下させるARBは透析患者にも有用である.





特別講演
いのちの現場から 〜健やかな心〜
演者:江川 晴

江川 晴 先生
 1944年、太平洋戦争終戦の前年に慶應義塾大学医学部附属の看護学校を卒業した私は同大学病院に勤務、後に結婚の為退職しましたが1960年代に再度母院に復職、その後、企業体診療室に移り1983年、定年を迎えました。その間の1980年、自分の体験を元に著した作品「小児病棟」が世に出たことから"物書き"に転身、現在に至りました。
 私が看護師から物書きに転身した動機は?と問われれば、女性が真摯に仕事に取組む姿、特に病気と闘う人と共に苦しみつつ命と真っ向から対峠する看護師の姿を追求したい、又、一般の人には見えない場で努力を続ける医療従事者が抱える様々な困難、ジレンマ、それらをどう乗り越えようとしているかを社会に訴え理解を得たい、との思いと、他方、病気と闘う患者さん及びその家族の立場に立ち、医療施設や医療従事者の皆様に、今最も求められているものは何か?を訴えたい、それらを自らの体験を通して活写し両者間の橋渡しができれば、との願いからでした。それがルポ「いのちの現場から」等一連の作品になりました。
 また看護の現場では様々な学びがあり、救急外来勤務では"人生は薄氷の上を歩くが如し"と感じ、今日を精一杯生きる事の重要性を知りましたし一般病棟勤務では精神の肉体に及ぼす影響の強さに驚きさえ感じました。
 俗に「健全なる精神は健全なる身体に宿る」と申しますが、現代では身体強健でありながら心を病む人の何と多いことか、私にはむしろ長期療養を余儀なくされ、それに立ち向かって生きる人こそ強靱な精神、健全な心の持主になれるのではないかと思えてなりません。
 このたびは、たとえ体に不具合をもっていても健やかな精神(こころ)があれば、如何なる困難にもめげず、生き抜くことができると感じた例を挙げ、毎日を一生懸命に生きることの大切さ、素晴らしさについて皆様と共に考えて参りたいと思います。




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